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浦和地方裁判所 昭和31年(わ)572号 判決 1957年2月18日

主文

被告人を懲役四月及び罰金五万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

但し、右懲役刑については本裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。押収中のオレンヂジユース五ケース百二十罐(昭和三二年押第一二号)はこれを没収し、なお被告人から金十五万一千七百四十円を追徴する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、合衆国軍隊、合衆国軍隊の公認調達機関、軍人用販売機関等、合衆国軍隊の構成員、軍属これらの者の家族及び契約者以外の者であるが、

一、別紙犯罪一覧表第一記載の通り昭和三一年三月六日頃から同年六月一日頃までの間十回に亘り埼玉県北足立郡大和町下新倉千六百九十一番地の被告人方居宅において駐留米軍兵士の妻であるフアーガス・フジエ外三名から同女等がPX(ピーエツクス)で買受けた関税免除物品であるウエステイングハウス真空掃除機等別表第一物品名欄記載の物品を所定の許可を受けないでそれぞれ譲受け以つて不正の行為によりこれに対する関税合計二万三千八十円並に物品税合計三万一千九十円を免かれ、

二、別紙犯罪一覧表第二記載の通り同年六月六日前同所において前記フアガス・フジエ外一名から同人等がPX(ピーエツクス)から購入した関税免除物品であるシトラゴールドオレンジジユース合計五ケース百二十罐(昭和三二年押第十二号)を所定の許可を受けないで譲受け以つて不正の行為によりこれに対する関税千百二十円並に物品税五百五十円を免かれようとしたがその取引の直前に捜査官憲に発見されたためその目的を遂げなかつたものである。(別紙犯罪一覧表第一、第二は起訴状添附のそれと同一であるからこれをここに引用する。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

法律にあてはめると、被告人の判示所為中判示第一の各関税法違反の点は、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律六条一二条一項、三項、関税法一一〇条一項一号(不正の行為により各関税を免れた点について)、一一一条一項(許可を受けないで貨物を各輸入した点について)に、判示第二の不正の行為により関税を免かれる目的でその各未遂に終つた点は同一一〇条二項、一項一号に、許可を受けないで貨物を輸入する目的でその各未遂に終つた点は同一一一条二項、一項に、判示第一の物品税法違反の点は各物品税法一八条一項二号前段に、同第二の同法違反の点は各同条一項二号後段にそれぞれ該当するところ、以上の各所為はいずれも一個の行為で三個の罪名に触れる場合であるから(なお犯罪一覧表第二の各所為についても同じ)刑法五四条一項前段、一〇条により別紙犯罪一覧表第一の(1)(2)(3)の各所為については犯情最も重い不正の行為により免かれた罪の刑に、同第二の各所為については右同その未遂の罪の刑に、その他の各所為については不正行為により物品税を免れた罪の刑に各従い、以上は同四五条前段の併合罪であるから、右関税法違反の点についてはいずれも関税法一一〇条により懲役及び罰金刑を併科し右物品税違反の点についてはいずれも懲役刑を選択した上懲役刑につき刑法四七条本文、一〇条により併合罪の加重をした刑期範囲内罰金刑につき同四八条によりその罰金刑の合算額の範囲内において被告人を懲役四月及び罰金五万円に処し、被告人が右罰金を完納することができないときは同一八条により金二百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、なおいろいろの事情を考えて同二五条一項一号により右懲役刑については本裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予することとする。なお押収中のオレンジジユース五ケース百二十鑵は関税法一一八条一項によりこれを没収し、右オレンジジユースを除く本件各関税法違反の貨物についてはいずれもこれを没収することができないので同条二項によりその貨物の合計価格十五万一千七百四十円を被告人から追徴する。ここで右追徴の点について一言すれば、関税法違反の罪については没収すべき犯罪貨物を没収できない場合には前記の如く同法一一八条二項によりその貨物相当の価格を犯人から追徴する旨の規定があり、物品税法違反の罪についてはこのような規定がない(従つて、一般法としての刑法一九条及び一九条の二の規定によることとなる)。そこで右両一所為数法の関係に立ち同法五四条一項前段、一〇条により犯情重い物品税法違反の罪により処断するときなお関税法一一八条二項により追徴を科しうるかが問題となるわけである。刑法五四条二項、四九条一項は、このように一罪として処断する場合又は併合罪加重をする場合重い罪に没収がなくても他の罪に没収があるときはこれを附加することができる旨を定めているが、追徴については特に規定するところがないのでこの問題が生ずるのである。もつとも右五四条二項は「第四九条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ適用ス」とあるだけで、四九条一項の規定の準用については触れるところがない。然し、右五四条二項は、処断上の一罪につき重い罪の刑に従う場合二個以上の没収を併科するというのであつて先ずそれは処断上の一罪とされた重い罪と軽い罪の両者に没収があるときこれを併科することを明らかにしているわけであるが、その趣旨は処断刑の基礎とならなかつた軽い罪の没収をも科しうる意味であり、従つて、重い罪に没収がなく、軽い罪に没収があるとき、重い罪により処断刑(主刑)を定める場合この軽い罪の没収を附加しうること(併合罪についての四九条一項と同旨)をも規範内容としているものと解することができる。してみれば、右五四条二項に四九条二項の規定を適用するとあるのは、当然に四九条一項の準用をも意味している。以下刑法五四条二項、というのは五四条二項により準用される四九条一項の意味において使う。

思うに、没収は刑法上附加刑とされているが(同九条)、追徴についてはその性質を明らかにした規定がなく、又没収は常に追徴に転化するのではなく、その転化する場合は刑法その他の法規において特別にこれを規定するところとなつているのである(同法一九条の二、一九七条の四その他)。従つて、没収と追徴とを制度的に常に同一に考えることはできないが、右五四条二項、四九条一項の規定の適用に関する限り、そこに没収とあるは追徴をも含むものと考えてよい。

蓋し、没収が追徴に転化する場合の没収は刑であるが、その実質は利益の剥奪すなわち犯罪によつて被告人が取得した利益を剥奪する処分である。その利益が犯罪と特定の関係に立つ物として裁判時現存する場合は物そのものを没収するということになり、物そのものとして現存しない場合は物に代る利益を金銭に評価して犯人の一般財産から追徴することになるわけである。従つて、かかる場合の没収と追徴とは実質上これを同一に考えることができる。更に、没収が追徴に転化できる場合に右五四条二項、四九条一項の解釈として没収は附加できるが、追徴は附加できないと区別して考えることは合理的根拠がない。これらの規定は主刑と没収とはひとしく刑法上刑とされながらも、没収についてはその制度の主刑と異る特別の目的に稽み併合罪及び処断上の一罪について処断刑を導くについて主刑と異る取扱をした趣旨のものである。併合罪及び処断上の一罪について処断刑(主刑)はなるほど重い罪の刑を基準として考えるが、この場合でも軽い罪(処断刑を定める場合選ばれなかつた)についての行為の評価及び責任は同時に問われているのであるから、没収について右のような特別の取扱いをしても毫も差支えないわけである。従つて右の場合軽い罪について追徴に転化する没収が定められている場合、処断刑(主刑)に附加できる没収が不能のときその転化された追徴を附加することは没収を附加する規定の精神に矛盾するものでないばかりか、没収は附加できるが追徴は附加できないとすると、両者同じく犯罪による利益の剥奪を目的としながら犯人がその物を処分してしまえば(実は物の処分により利益の取得は確実にされることが多い)も早やその利益の剥奪はできないという結果となり追徴に転化する没収を定めた法の趣旨にももとることとなる。以上の次第であるから本件において物品税法により、処断刑を定めた場合でも、関税法による追徴を附加することができるものと考うべきである。なお本件において関税法により追徴を科するのか、それとも処断刑を導くための基礎となつた物品税法に追徴の規定がないから刑法一九条の二、一九条により追徴を科するか一応疑問となるが関税法による追徴は刑法のそれに優先するわけであるからこの場合もまた関税法による追徴を科すべきものと考える。

そこで訴訟費用の負担について刑訴法一八一条一項本文を適用し主文の通り判決した。

(判事 谷口正孝)

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